PROJECT STORY 09

建設計画から68年目に完成した八ッ場ダム建設プロジェクト

―地元企業としてJESCO SUGAYAが参加―

八ッ場ダムについて

1952年、国土交通省は利根川支流の吾妻川の治水、利水、発電を目的に、群馬県吾妻郡長野原町に八ッ場ダムの建設を決定。しかし、その後、凍結→延期→中止→建設再決定と、八ッ場ダムの建設は時代の波に翻弄され続けてきた。
建設決定から68年が経過した2020年4月、八ッ場ダムは幾多の波を乗り越えようやく完成、運用が開始された。
運用開始を前に、八ッ場ダムは再び世間の耳目を集めることに――。
運用開始を控え、試験貯水を開始した2019年10月、台風19号が日本列島を襲い、東日本、東北地方に記録的な大雨、暴風をもたらす。

台風19号による豪雨では、首都圏の洪水被害の軽減に威力を発揮する

大雨で利根川が増水、ダム貯水池内に7,500万tの雨水が流入、54mもの水位上昇をもたらした。これが首都圏を中心に、利根川下流地域の洪水被害の軽減に大きく貢献したとして話題になった。

長い間、世間の注目を集めてきた八ッ場ダムの建設、その電気・通信工事で数多くの工事に携わったのが群馬県に本社を置き、電気・通信設備工事会社として70年の歴史を持つJESCO SUGAYA株式会社だ。
国土交通省(八ッ場ダム工事事務所)や群馬県、東京電力、ダム共同企業体から受注。地元でのつながりや実績を買われ、元請工事を中心に下請けの工事を含め、ダムや周辺施設の電気・通信、送電、発変電などの20数カ所の工事を担当した。
工事内容はダム建設で水没する送電・変電施設や光ケーブル、テレビ放送の共聴設備の移設など。具体的にはダム放水や河川監視のカメラ、それに伴うCCTVケーブルの敷設や発電所建屋、管理棟の電気設備・通信設備、ダム本体の監査廊照明、ダムアップライト照明や観光用モニュメントなどの工事、さらには一部の新設道路照明、新設体育館の電気設備工事など広範囲にわたる。
これらの工事に特別な思いで臨んだのが、執行役員専務兼エンジニアリング事業本部本部長の萩原邦俊だ。長野原町出身の萩原は、地元で注目されている工事に対する思い入れが強かった。「工事を通し地元の暮らしに貢献したい」。JESCO SUGAYAの社員、地元の関連会社もそのような想いは同様で、その共感が大きなパワーとなって動き出す。

プロジェクトの指揮を執った5人の技術者のエピソード

5.8キロの既設送電設備の撤去、夜間も含めた工程管理
地元群馬で創業から培った技と想い

エンジニアリング事業部、電力工事部送電課課長の狩野久志が担当したのは、八ツ場ダム建設に伴い水没する送電設備を撤去し、地中送電線に繋げる新たな架空送電設備の工事だ。
既設の送電設備の撤去は、5.8㎞にもわたる送電線と鉄塔22基が対象となる。送電線や鉄塔基礎の撤去や鉄塔材を解体し、運び出すという膨大な作業を行う必要があった。
新設の架空送電工事では、人が立ち入れない谷間の河川越しの延線と向き合うことになる。工事は「ラジコンヘリ」を手配して進められた。創業以来、培ってきた数多くの送電工事の技に加え、人脈と情報を駆使し柔軟に対応した。
鉄道をまたぐ架線作業は夜間の作業となったり、同時進行する他の八ッ場ダム関連工事間の工程や規定で思うように工事が進まないことも一度や二度ではなかった。
まさに大変な量と労力の工事という印象だが、狩野は明るく笑ってこう話す。
「これが送電の仕事ですよ。大変といえば大変だけど、その分やりがいも大きい現場でした」

 

元請、協力会社など、人との繋がりを大事にしたことが
プロジェクトの成功につながる

入社28年でインフラ事業部情報通信課係長の岩﨑貴義が担当したのは情報通信部門だ。ダムや吾妻川流域、吾妻川に架かる橋などにCCTV(監視カメラ)20台をはじめ、簡易カメラ10台を取り付けた。カメラの取り付け作業は全体の工事の最終部分になるため、短期間での取り付けが要求された。
また、河川など足場の悪いところでの作業が多く、さらに、岩﨑が担当した工事には、数多くの関連工事会社が参加しているため、現場によっていろいろな技術者や作業員と対応する機会が多くなる。
繊細なCCTⅤケーブルの扱いに技術定評のある岩﨑だが、工事を成功させるため心に刻んだことは、「まず人。人との繋がりを大事にする」ということだった。
岩﨑は発注者の指示が出る前にどんどん仕事の準備を進めるとともに、協力会社に対しては多少工程通りに進まないことがあっても笑顔で接するように心がけた。約4年間の八ッ場ダムでの仕事を通し官庁、大手ゼネコンの発注者、協力会社、地元住民との信頼関係を築くと共に、新たな人脈が広がり、岩﨑の信頼は高まっていった。

 

特別なことは何もない。いつもと同じように行うだけ

インフラ事業部、電設課係長の近山司はダム管理棟の電気設備を担当した。管理棟はダムと貯水池の安全監視機能に加え、観光者向けの資料、映像などの展示スペースを兼ねた施設だ。

近山にダムへの思い入れや苦労などを聞くと、「えっ 何もないですよ」と、意外な言葉が返ってきた。そして「我々の仕事は設計図面に基づき、それを確実に形にするだけですから」と淡々と話す。

この工事に参加する業者は多く、電気工事だけでも3、4社あり、互いを考慮した工程管理や別途業者からの要望、変更などへの対応に迫られた。さらには、20~30cmの積雪の中、安全確保のため「雪かき」から始まる日もあったという。
近山は言う。「どこでも同じです。すべては想定内。確実な施工のために必要だったというだけですよ。どんなに思い入れや苦労があっても、施工時にミスや怪我があったら何にもならないですからね」

「規模や動員数などに関係なく、どんな工事でも“確実な施工”に集中する」。このあたりまえでぶれない近山のような姿勢が、SUGAYAが群馬で信頼され続けてきた理由であろう。

 

発電所内のコンクリート打ち放しの壁への配線工事では、
他とは違う美観が求められる

発電所建屋の照明工事などを担当したインフラ事業部電設課係長の中村久志も萩原と同じ長野原町の出身だ。
これまで、道路や公園など屋外での照明器具の設置工事を数多く手がけてきた中村は、発電所内に照明器具やコンセント、火災報知器などを据え付ける工事を担当した。「技術的には、これまで経験してきた工事と大きな違いはありませんでした」とする一方で、この工事特有の注文もあった。 

地下室のコンクリート打ちっ放しの壁の配線は、建物の設計上、壁の中に埋め込むことができないため露出して張り巡らす。人の目に触れるため「見た目の良い配線」を要求された。
中村は図面を元に、頭の中で配線経路を描きながら、協力会社の作業者に指示した。「神経を使いましたが、思い通りの配線できたと思います」と自信を見せる。

無事工事を終えた中村は、「生まれ育った土地で注目されているダムの工事を担当し、無事に終えることができ、ほっとしました」と安堵の表情を浮かべる。

反射板から40km離れたパラボラアンテナに電波を開通させる作業では、
これまで経験したことのない緊張感を味わう

エンジニアリング事業部、施工技術部主任の松本貴洋は、通信用反射板設置工事に携わった。
八ッ場ダムに新設した管理棟と赤城山山頂の中継所までを空中線で結ぶルートを構築するための工事だ。
電波が山などで遮られるため、マイクロ波をダムの管理棟の横に設置したパラボラアンテナから、赤城山のアンテナに電波を直接送信することができない。
ダムから2㎞離れ場所に反射板を設置して、そこで電波を反射させ、約40㎞離れた赤城山山頂の直径4mのパラボラアンテナに開通させなければならない難工事だ。
まず、工事はダムの近くの山頂に、8m角の反射板を設置することから始まった。基礎工事から、反射板の取り付けまでに3カ月を要した。目に見えないマイクロ波を40㎞離れた直径4mのパラボラアンテナに開通させる―。その難しさを松本はこう語っている。
「遠く離れた針の穴に糸を通すような精度が必要で、ここまでの精度を要求された仕事は初めてでした。これまで経験したことのない緊張に覆われました」。
松本は反射板の6個のボルトを微妙に動かしながら、数ミリ単位で板の角度を変え、電波を開通させるための微妙な調整を繰り返した。0.1度角度が異なっても40㎞離れると大きな誤差を生んでしまう。電波を無事開通させるまで、調整に2日間を費やした。

松本は電波が反射板に開通したときの感想を、声を弾ませながらこう語っている。「これまで経験したことのない安堵感と達成感で満ち溢れました」

八ッ場ダム工事に参加した技術者の多くが、「この工事は本当に充実していた」と話している。
そして萩原は、八ッ場ダムの工事をこう総括する。「地元企業として、地元に少しでも貢献したいとの思いが強い工事でした。工事を通してお客さんや協力会社、地元住民との信頼関係や人脈も築けたし、SUGAYAにとっては非常に意義のあるプロジェクトでした」

(2022年1月掲載)

JESCO SUGAYA株式会社
執行役員専務
エンジニアリング事業本部
本部長
 

萩原 邦俊

HAGIWARA KUNITOSHI

JESCO SUGAYA株式会社
エンジニアリング事業本部
エンジニアリング事業部
電力工事部 送電課
課長

狩野 久志

KANO HISASHI

JESCO SUGAYA株式会社
エンジニアリング事業本部
インフラ事業部
情報通信課
係長

岩﨑 貴義

IWASAKI TAKAYOSHI

JESCO SUGAYA株式会社
エンジニアリング事業本部
インフラ事業部
電設課
係長

近山 司

CHIKAYAMA TSUKASA

JESCO SUGAYA株式会社
エンジニアリング事業本部
インフラ事業部
電設課
係長

中村 久志

NAKAMURA HISASHI

JESCO SUGAYA株式会社
エンジニアリング事業本部
エンジニアリング事業部
施工技術部
主任

松本 貴洋

MATSUMOTO TAKAHIRO

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