PROJECT STORY 08

水防災情報システムを構築し、ベトナムの古都・フエ地区の洪水被害を軽減

―海外初の防災関連設備プロジェクト―

プロジェクトマネージャー JESCO ASIA執行役員 此枝 晃

JESCOグループがベトナムのフエ地区で手掛けていた海外で初めての大型防災関連設備プロジェクトが2021年9月、完工した。SDGs(持続可能な開発目標)の目標11「住み続けられるまちづくり」に取り組み、サスティナブルな社会づくりに貢献した。
工事の陣頭指揮に当たったJESCO ASIA執行役員でプロジェクトマネージャーの此枝晃は、大型の防災関連工事を無事終えた後、ホットした表情で感想をこう語っている。
「新型コロナウイルス感染の影響で機材の搬入が遅れ、工期の遅れはありましたが、無事故で終えることができました。このプロジェクトを通し、われわれの技術が災害で苦しむベトナムの人たちの一助になれれば嬉しいです」
ハノイとホーチミンの中間に位置し、ベトナム最後の王朝の都として栄えた街・フエ。中国に源流を発した全長1,200㎞の大河・フオン川は、古都フエの中心部を流れ、南シナ海に抜け出る。  
普段は穏やかな大河だが、集中豪雨が多発する9月から、翌年の2月ごろにかけては、フエの市街地や流域で毎年のように風水害や土砂災害などの多大な災害をもたらす。降雨量、河川水位・流量、ダム水位などの情報収集、洪水被害の予測と情報発信体制が整っていないことが大きな原因だ。

海外初の大型防災関連設備工事の陣頭指揮をとったのは
入社20年のベテランエンジニア

ベトナム政府は、日本のODA(政府間援助)と災害防止技術を活用して、ダムや河川の管理の能力を高め、洪水被害を軽減するため、水位、雨量などの水文観測設備と水防災情報システムの構築に乗り出した。
日本の災害防止技術を活用して流域にある3カ所のダムやフオン川の水位、雨量などのモニタリング設備と水防災情報ネットワークを構築し、適切なタイミングと水量でのダムの貯留・放流を行おうというものだ。
この工事で中心的な役割を果たしたのがJESCO ASIA社だ。
そして、JESCOグループにとって海外で初めての大型防災工事プロジェクトの陣頭指揮をとったのがJESCO ASIA社の此枝晃だ。入社20年のベテランエンジニアで、2014年にベトナムに赴任した。
ベトナムでは、国際空港やホーチミン―ゾーザイ間高速道路ITS設備工事など、ODA案件工事を数多く手がけてきた。今回のプロジェクトでは、家族をホーチミンに残し、2年半フエに単身赴任して工事の指揮をとった。
此枝はベトナムで大型防災システムの受注に至った経緯をこう説明する。「JESCOグループの日本での防災・減災工事の技術、ベトナムでのノイバイ国際空港、タンソンニャット国際空港、さらには高速道路ITS設備などの工事技術、実績が評価された結果です」と。

 

水位10mのダムの湖底に機器を据え付ける工事を初めて経験

防災関連工事でJESCO ASIA社が担当したのは、水位観測局10カ所、CCTV局14カ所、無線局7カ所などを建設、機器を設置し、システム化することだ。
具体的にはフオン川流域のビンディエンダム、フォンディエンダム、ターチャックダムの3カ所のダムのゲートや、ダムの湖底に開度計や水位計などの機器を据え付ける作業だ。ダムの水位は満水時では30メートル以上に達するが、通常でも10メートルの深さがあり、「これまで経験したことがない工事だった」(此枝)
ダム天端からダムの湖底に設置する水位計の保護管の設置作業は、地元の潜水専門の業者に依頼した。
此枝は、「命に係わる大事故につながる危険性があるので、潜水士の安全には十分注意を払いました。とくに、潜水する前に空気を送り込むエアコンプレッサー等の使用する機器の使用前点検を実施し安全動作を確認したうえで、作業についてもらいました。その結果、ひとつのトラブルもなくダム湖中での工事を終わらせることができました」と、安堵の表情を浮かべる。
さらに、ダムや河川流域10カ所に水位観測局、14カ所にCCTV(監視カメラ)、7カ所に無線局を設置し、その中に水位計や雨量計、無線機などの機器を据え付けた。各局から送られるデータを送受信する空中線を取り付けるための鉄塔の建設では、「山を分け入り頂上まで資機材を運んで取り付けるため、資機材の搬入に苦労しました」と話す。

 

言葉の壁に打ち当たるも現地技術者と徹底的に話し合い克服

工事は電気・通信関連から、土木、建設など多岐にわたり、6、7カ所の現場で工事が並行して進められた。此枝は1日に数カ所の現場を回り、工事の進行や品質をチックするとともに、工事内容の確認作業に奔走した。
工事を始めるに当たり、技術者などの人材集めから始まった。工事スタッフは建築関係エンジニア、電気関係エンジニア、機器の据え付け担当のエンジニア、安全担当者など合計6人、事務担当者1人のベトナム人スタッフで編成した。スタッフへの指示や打ち合わせは、英語で行った。
「日本での技術経験を生かせば、難しい工事ではない」。そんな思いで臨んだ此枝だが、言葉の壁が待ち構える。お互いが母国語でない言語で会話するため、「なかなか思うように想いが伝わらないことがあった」ようだ。
此枝は作業に支障をきたさないように仕事の前には、設計図をにらみながら、何度も何度も話し合いを重ね作業の内容や段取りを確認した。「少しでも理解できないところがあれば、現地の技術者や作業員と徹底的に話し合い、齟齬がないように努め」言葉の壁を克服した。その一方で、「指示が十分伝わらない点があったかもしれません。もう少し確認の頻度をあげておけばよかった。次の仕事に生かしたい」と反省点もあげる。

 

並行して数カ所に機器を据え付け、それを結びシステム化すること
それがJESCOの技術

「個々の場所に設備を据え付ける工事は難しくありませんが、今回の工事はダムや河川数カ所に設備や機器を据え付け、それをシステムとして稼働させることでした。これができるのがJESCOの技術といえるのではないでしょうか」。そう話す此枝の声が弾んだ。 
此枝はフエに赴任中、台風の影響で宿泊先の床下まで水につかり、2階に避難した経験も味わった。この経験を通じ、「われわれの防災工事がフエの人たちの防災に役立ち、安心して住めるまちづくりに少しでも役立てれば…」と、此枝の防災・減災設備工事に対する想いはより強まったようだ。
工事が完工し現在、データの収集状況などの実証試験を通し、システムの稼働状況を確認中だ。此枝は、「防災システムの本格運用が始まり、その効果が発揮されれば、ベトナムでの災害・減災関連の仕事が増えていくと思います」と、ベトナムでの防災・減災関連工事の受注拡大に大きな期待を寄せる。
JESCOグループは、国内外で防災・減災工事を経営の柱のひとつに掲げており、今回の工事を機に今後、国内外での受注拡大を目指し、サスティナブルな社会づくりに貢献していく方針だ。

(2021年12月掲載)

JESCO ASIA JSC
執行役員(CSI事業部 事業部長)

此枝 晃

AKIRA KONOEDA

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